Vol.11
2004年
秋季/冬季
表

[写真]毎日新聞社提供
[題字]島津碧嵒
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アニメの効果音 野口 透さんへのインタビュー
宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の効果音を作った人がいると聞いて、野口透さんを赤坂の仕事場に訪ねました。
●野口さんは『千と千尋』のどのシーンの音を作ったのですか
アニメではシーンで音の分担を決めたりしません。最近のアニメの音は5.1チャンネルとか6チャンネルを使い、シンセサイザーなどで「作る音」と、「生音」と「ベース音」があります。
効果音は原則1人でやりますが、宮崎監督は音のこまかい書き込みが多くて1人ではやり切れませんから2人で分担し、私は「生音」と、「ベース音」を担当しました。「ベース音」は雨音のような後ろで聞こえているノイズのことです。
それと、全ての足音も担当しました。内緒ですが千尋の足音は私の足音です。(90キロ近い巨体を揺すって笑う。失礼ながら爆笑。)
●「生音」って何ですか
例えば、千尋がエレベータで一緒になるオシラ様は大根の神様ですが、擦れ違ってキュッという音がします。その「キュッ」は実際に大根をこすって作りました。でも「生音」はシンセなどデジタルな音ではないアナログな音といった方が適切です。別
な言い方をすれば、実際にあるものから作る音です。お風呂を使って洪水の音を作るのも「生音」です。
●宮崎監督の音についてのこだわりはどうですか
流行としてチャンネルが増えるんですが、私たちは日常、ほとんど1チャンネルのモノで音を聞いているんだと思うんです。今度、地上波デジタル放送は5.1チャンネルになるんですが、チャンネルが増えると音が技巧的になっていきます。監督は本当はモノで作りたいと言ってます。
(*5.1チャンネルでは低音専用のチャンネルを0.1と数える。)
それと監督は「生音」にこだわりを持ってますね。シンセだと音が似てくるからでしょう。ほかの監督のコンピュータ・グラフィックスで作った作品なんかでも、「生音」を使いたがる傾向はあります。音は自然なものにしたいんでしょうね。
●「生音」と「作った音」とはそんなに違うものですか
音を作っている者にしか分からないくらい違いはありません。でも、デジタルな音は編集していくうちに痩せてくるんです。自然の音は波形で見ると滑らかな曲線ですが、電気的な音は直線的です。サンプリング周波数が多ければ、細かい刻みで変化をつけることができて、44ヘルツより48ヘルツの方が4だけ滑らかになります。96ヘルツとかそれを超えるものが出てきていますが、デジタル化し、さらに圧縮していけば、波形は滑らかでなくなってしまいます。だから、音としては汚れるんですが、途中で1度アナログに戻したりします。クラシック音楽などは楽器の倍音成分を損なわないために、真空管のアンプにこだわる人がいますよね。聴いた時に音が薄っぺらくなるのを嫌うんですね。
●アニメは完成までにどんな進め方をするんですか
普通は台本があって絵コンテができ、セリフや効果音も書き込まれた録音台本が作られます。絵ができてセリフや音楽が入って、効果
音を入れるのが理想でしょうが、実際には絵がなかなか完成せず、ラフな状態でセリフも音もそれぞれに進めるしかありません。
宮崎監督の場合は荒筋は監督の頭の中にあり、台本がなくて絵コンテにセリフも効果
音も書き込まれます。こんな感じの音、という説明を受けて効果音作りに入るんですが、全体の流れを知って、音としてポイントがどこに来るかを掴んで進めます。できあがった音とセリフをミキサーがバランスをとりながら編集していきます。
音はどうにでも作れるんです。だから、監督が求めるものが何かが分かればいい。例えば、「キラーン」という音だって、「ピン」という弾いた生音を混ぜることで気持ちのいい音が作れます。
●野口さんの音に対するこだわりは何でしょう
音だけで表現できるとも、しようとも思いません。映像との相乗効果が出ればいいと思っています。でも、できるだけ生音で作れればいいなと思ってます。
それと、千尋の足音を作る時、千尋の気持ちになって作るということですね。不安な気持ちの時や考えごとをしている時では歩き方が違うと思うし、自己満足でもそれが表現できてるかなと思える時は嬉しいですよね。
これは今でも若いスタッフが言われていることだと思うのですが、私も先輩に言われてやっていたことがあります。町の中で前を歩いている人と同じテンポで歩き、また別
な人のテンポに切り替えることをやるんですね。そうすると足音作りがうまくいくんです。
●自然な音についてはどう思っていますか
千尋が「りん」にたらい舟で駅に送ってもらうシーンの波の音は琵琶湖で録ってきました。自分の生まれ育った場所なので、子供の頃に聞いていた音だったんです。
成城の東宝撮影所の中に音を録るスタジオがあるんですが、ほとんどの音をここで2週間かけて作りました。階段や畳や音を作る素材が山ほど揃っているんです。階段を上り降りする音を実際の階段を使うことにこだわる人もいます。響きが違うということで。
私はそういうこだわりはしません。作品の中で音が気持ちよく聞こえればいいと思っています。
アメリカのアニメではウインクに音をつけているのもありますが、自然に聞こえればいいんじゃないでしょうか。
●「耳を開く」という言い方があり、屋久島で音を録っている人が音で生態系が分かると言うのですが。
たしかに都会を離れると視界も耳も360度に広がるかもしれませんね。人間も動物ですから、本来そういうものかもしれない。まして屋久島なんかだと、精神も高揚してくるんでしょう。
私も東京と彦根を行き来しているんですが、田舎はアナログチックな音が多くて、都会の殺伐とした音と違って何か落ち着きますね。
(後記)
アニメの最前線で「音を作る」という仕事で楽しく苦心している野口さんが、「アニメはウソの世界」と言い切って、自然の音に包まれるとほっとするという言葉に、思わず頷いていました。
私たちは幸いなことに生の自然の音を聴くことができます。しかし、情報の9割は視覚から得ているそうで、聞きたい音のほかには「耳を閉ざして」しまっているようです。
野口 透(のぐち・とおる)
1961年、滋賀県彦根市生まれ。アニメ・サウンド・プロダクション勤務。映画やテレビ、アニメの効果
音を制作。『千と千尋の神隠し』からジブリ作品に係わり、今秋公開予定の宮崎駿監督の『ハウルの動く城』にも音作りで参加。
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