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富士山の五合目は、広大なすそ野を持つ富士山が、いよいよその円すいをギュッと縮め始め、登山者の多くがここを起点に登り始める場所。
ここから上を望むとき、森林限界を這い上ろうする植物を寄せ付けぬように立ちはだかる岩肌の富士の姿がそこにあり、下を望めば木々たちが加勢を得て、
ますます攻め上らんとするかのような樹海の森が広がっている。
初日は崩壊地をいくつかトラバースして、大沢崩まで往復する水平移動。絶え間なく起こる侵食と崩壊は今もなお、富士山の形を変え続け、
大沢崩の巨大な崩壊の前で耳をすませてみれば、立ちこめるガスの中、遠くでかすかにカラカラと響く崩壊の足音が次第にゴロゴロ、ガラガラと近づいてくる。
過ぎ去ったかと思えば、またどこかで足音は響き始め、わずかながらも絶え間なく続く崩壊が、不変と思われるあの富士山の優美な姿を少しづつ変えていく現場がそこにあった。
夜、講師の渡辺さんが持ち込んだノートパソコンを囲み、樹海の写真を見ながら富士山樹海の植物の特徴についてレクチャー。
富士山を愛してやまず、30年にわたって富士山を研究してきた渡辺さん。樹海をはじめ、標高が変わるごとに変化する植生、北西の斜面に点々と延びる割れ目噴火の跡や60にも及ぶ寄生火山。
長い年月をかけてブナやミズナラの茂る極相の森まできた古い森に寄生火山の噴火で流れ込んだ溶岩が森を焼き、新たに再生された若い森が樹海となり、
まだら模様のようになった古い森と若い森が交互に現われるような場所は世界でも稀で、貴重な場所だという説明に、明日からの行程が楽しみになる。富士山の楽しみ方は、登山だけではないようだ。
翌日は精進湖まで一気に下ることで亜高山帯のシラビソ、トウヒ、コメツガなどの針葉樹林から標高1600〜800m付近の山地帯のブナ、ミズナラ、カエデ類の落葉高木、
800m以下の低地帯のシイやカシなどの照葉樹まで、歩く速度で変化する森の様相を感じる。針葉樹の下に絨毯のように苔が広がり、倒木更新があちこちで見られていた森がいつの間にか、
紅葉したブナとその下にまるで沿道の両側のから握手を求めるかのように生い茂ってくる熊笹の林へと変わり、さらに雑木林のような雰囲気の中、
ススキの穂に秋の夕暮れを感じたかと思えば、終点の精進湖近くではまた樹海が広がる森がある。
富士山のユニークさは、溶岩流が森を焼き、草木も生えない溶岩台地から再生途中の若い森と溶岩の影響を受けなかった古い森とが入り交じり、
垂直分布という縦軸に加え、新旧の森が入り交じる時間軸のタイムトリップ的な空間が五合目から裾野にかけて広がっている点にあるのではないでしょうか。
五合目の奥庭から青木ケ原樹海まで富士山の広大な裾野に一本、ぴーっと線を引いたように歩き下って来た時、
先頭を歩く渡辺さんの背中に、まだまだ見せ足りん!また来いよ。と言われたような気がしました。
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